人事労務の小ネタ

ワークシェアリング

 ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うことを意味します。ワークシェアリングについては、現下の厳しい雇用情勢の中、雇用の維持・創出という観点から、社会的関心が高まっているところであり、また、少子高齢化の進展や勤労者の価値観の変化が進む中、多様な働き方の実現手法の一つとして位置づける動きもあります。

 ワークシェアリングは、その目的から、次の表のように4タイプに分類できます。

目的からみた分類背景誰と誰のシェアリングか仕事の分ち合い手法賃金の変化
1)雇用維持型(緊急避難型):一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として、従業員1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。・企業業績の低迷・現在雇用されている従業員間全体・所定内労働時間短縮
・休暇の増加
・減少
・維持(生産性上昇等によりカバー)
2)雇用維持型(中高年対策型):中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に、当該従業員1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。・中高年を中心とした余剰人員の発生
・60歳台前半の雇用延長
・高齢者など特定の階層内
・60歳未満の世代から60歳以上の世代
3)雇用創出型:失業者に新たな雇用機会を提供することを目指して、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与える。・高失業率の慢性化・労働者と失業者・法定労働時間短縮・政府の援助により維持される場合が多い(フランス)
・労働者(高齢者)と失業者(若年層)・高齢者の時短、若年層の採用・減少
4)多様就業対応型:正社員について、勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与える。・女性・高齢者の働きやすい環境作り
・育児・介護と仕事の両立
・余暇-所得選好の多様化
・労働者の自己実現意識
・企業にとっての有能人材確保
・現在の労働者と潜在的な労働者・勤務時間や日数の弾力化
・ジョブシェアリング:1人分の仕事を2人で分担
・フルタイムのパートタイム化
・働き方に応じた賃金

資料出所:厚生労働省「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」

 ここでは、ワークシェアリングのなかでもCSRとの関連が深い多様就業型ワークシェアリング(表の4)について見ていきます。

 多様就業型ワークシェアリングは、勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの者に雇用機会を与えることを目的としたワークシェアリングです。そして、このワークシェアリングでは、これまで育児や介護をはじめ様々な制約によって就業の機会を得られなかった者に積極的に就業機会を与え、能力発揮の場を提供すると同時に、現在の労働者にも、自らのライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方を提供するという意義を持っています。また、企業にとっては、有能な人材の確保につながるとともに、人事管理や業務の進め方等を見直すことにより、企業運営の効率性を高めることも考えられます。さらに、国民経済的にみても、潜在的な労働供給を掘り起こし、少子高齢化の中で、労働力の供給制約を克服していく有効な術と位置づけられています。

 多様就業型ワークシェアリングを推進するための代表的な働き方としては、短時間正社員と在宅勤務が挙げられます。

 短時間正社員とは、フルタイム正社員より一週間の所定労働時間が短い「正社員」をいいます。つまり、フルタイム正社員とは所定労働時間が異なり、職責や役割、キャリアアップに違いが生じ得るものの、「正社員」としての働き方を想定しています。

 また、短時間正社員制度としては、以下の(ア)、(イ)のタイプが考えられています。

(ア)フルタイム正社員の所定労働時間を一定期間短くするタイプ(「タイプⅠ」とする。短時間正社員期間終了後は、フルタイム正社員に復帰することを前提とする。)
(例)

  • 育児
  • 介護のため、一定期間短時間勤務で働く場合
  • 仕事を続けながら一定期間学校に通うなどの自己啓発を行う場合

(メリット)

  • 従業員のメリット
    • 育児・介護のために一定期間短時間勤務で働くことができる
    • 仕事を続けながら一定期間学校に通うなど、自己啓発ができる
  • 企業側のメリット
    • 従業員が会社以外のために時間を割くことが可能となり、有能な人材の職場への定着や人材確保が容易になるので、企業の競争力も高めることができる。
    • 人事管理、労働時間管理、賃金管理、業務の進め方などの見直しにより、企業運営の効率化を図ることができる。

(イ)所定労働時間を恒常的に短く設定するタイプ(「タイプⅡ」とする)
(例)

  • 仕事と家庭生活のバランス、健康面や体力面の考慮、自己啓発や社会活動等のため、恒常的に短時間で働く場合
  • パートタイム労働者やフルタイム正社員から転換する場合、または、採用時から短時間で働く場合

(メリット)

  • 従業員のメリット
    • 仕事と家庭のバランス、健康面や体力の考慮、自己啓発や社会活動等に応じた働き方ができる
    • 技術的に優秀な高齢者の再雇用を行える
  • 企業側のメリット
    • 仕事家庭のバランス、健康面や体力の考慮、自己啓発や社会活動に応じた働き方を希望する有能で多様な人材の職場への定着や人材確保を容易にし、企業の競争力を高めることができる
    • 企業運営の効率化の推進

「タイプⅡ」については、現在導入が進みつつあり、今後ニーズが高まるものと考えられます。

 短時間正社員制度を実施する場合の留意事項として、次のことが挙げられます。

  • 制度を導入する際の処遇の取扱いについて、不当に低下させることがないようにする
  • 仕事の進め方については、とくにタイプⅡでは、フルタイム正社員に仕事のしわ寄せがいかないようにすること。また、顧客等会社外部への対応で支障が生じないようにしなければならない。
  • 処遇面では、短時間正社員というだけで、賃金制度、評価制度、退職金制度でフルタイム正社員に比べて不利益を被ることがないようにしなければならない。

 また、厚生労働大臣により、短時間正社員制度を運用していく場合の指針が示されており、それによれば、雇用通知書の交付、就業規則の整備、労働時間、賃金、健康診断の実施、その他教育訓練の実施などに留意し、本制度を運用していくことが重要だとされています。

 在宅勤務についても、通勤時間など通勤負担が軽減されることから、勤務可能な企業の範囲が拡大されるとともに、仕事と家庭との両立を求める者、体力的な制約のある高齢者や通勤が容易でない障害者などの雇用機会の拡大が図られるという点から、多様な働き方の選択肢を拡大し、雇用の維持・創出を図る多様就業型ワークシェアリングの目的に資する働き方と考えられます。なお、企業側にも、人材の確保の他、オフィスコストの削減などのメリットが考えられます。

 在宅勤務の形態については、週あるいは月のほとんどを住宅で勤務する場合と、部分的に住宅で勤務する場合とが考えられます。どちらの形態でも、意思疎通の確保をできる仕組みを整えておくことが充実した制度運用のためのポイントとなります。

 これらワークシェアリングを行うには、ワークシェアリングが仕事を分かち合うという発想に基づくため、1)個々人の職務範囲が明確化され、仕事量が把握されていること、2)時間当たりの賃金という概念、が前提となってきます。そうすると、ワークシェアリングとは、一般的に、労働投入時間と成果の対応がわかりやすい業種・職種に適用が限られてくることになります(製造ライン労働者や現場販売員、バックオフィスの事務員など)。

 しかし、ワークシェアリングの発想を活かし、雇用の維持や創出に取り組んでいくことこそ肝要であるといえるでしょう。各企業の実情に合った制度設計を行っていってください。


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2014-08-06 (水) 08:16:50
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