人事労務の小ネタ

ワーク・ライフ・バランス

 成果主義の普及などにより働き盛りの世代を中心に、長時間労働によって、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすなど健康を害したり、家庭生活を充実させる十分な時間が確保できないといった弊害が生じています。

 また、少子高齢化、企業間競争の激化、非正規雇用者の増加にみられる雇用形態の多様化といった社会の変化とともに、これまでの「働き方」「働かせ方」を見直すことも重要になってきました。個人は長い職業生活のなかで、仕事とそれ以外の生活との配分をどのように選択したらよいか、また、企業は重要な人材資源である労働者の能力を引き出し有効活用するために、働く環境をどのように整えたらよいか、ということは重要なテーマであるといえます。

 これらのことに対応していくためにも、仕事と生活の調和、すなわちワーク・ライフ・バランスを実現していくことは、CSRを果たす上でも欠かせない取組みとなっています。ワーク・ライフ・バランスに取り組むことで、優秀な人材の確保と定着、従業員のモラール向上による労働生産性の向上などが期待できます。

 企業がワーク・ライフ・バランスに取り組む際のポイントは、従業員の私生活を充実させるためにまずそのための余裕を確保した上で、福利厚生施策等で対応するということになります。つまり、まずは長時間労働問題やサービス残業問題を解消し、労働者に時間的余裕を与えることが、ワーク・ライフ・バランスを実現する上で不可欠だということです。

 平成18年4月に施行された「労働時間等設定改善法」は、事業場の労働時間等の設定の仕方を労使が自主的に職場の実態に応じて改善することを目的としています。また、仕事生活の調和の取れた働き方を可能とするため、同法に基づく「労働時間等設定改善指針」(平成18年3月31日厚生労働省告示第197号)は、以下で示すような労使で取り組むべき事項を具体的に示しています。

  1. 労働時間等の設定の改善に取り組むための実施体制の整備
     労働時間等の設定を改善するにあたっては、「労働時間等の実態を適正に把握する→委員会の設置など、労使が話し合う機会を整備する→要望・苦情に対応できる体制をつくる→業務を見直す→取組み計画を作成し、これに従って取り組む」といった取組み体制を整備することが重要です。
     ここで言う、委員会の設置についてですが、「労働時間等設定改善委員会」を設置していくことです。労働時間等設定委員会は事業主代表と労働者代表により構成されます。委員会の要件として、
    • 委員の半数は、過半数労働組合(なければ事業場の労働者の過半数を代表する者=過半数代表者)の推薦に基づき指名されていること
    • 委員会の議事について、議事録が作成・保存されていること
    • 委員会の運営について必要な事項(任期、委員会の招集、定足数、議事など)に関する規程がさだめられていること
    • その規程の作成・変更について、委員会の同意を得ていること
      が必要となります。
       なお、衛生委員会(安全衛生委員会を含む)でも、次の要件を満たせば、労働時間等設定委員会とみなすことができます。
    • 過半数労働組合または過半数代表者との書面による協定で、衛生委員会等に当該事業場の労働時間等の設定の改善に関する事項を調査審議させ、事業主に意見を述べさせる旨を定めること
    • 労働時間等設定改善委員会と同じ要件を満たすこと
       
       また、労働時間等設定委員会が5分の4以上の多数による決議をすると次の労使協定に代替することができます。
    • 1ヶ月単位の変形労働時間制の導入(労働基準法32条の2第1項)
    • フレックスタイム制の導入(同法32条の3)
    • 1年単位の変形労働時間制の導入(同法32条の4第1項及び第2項)
    • 1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入(同法32条の5第1項)
    • 交替制など一斉休憩によらない場合(同法34条第2項)
    • 時間外・休日労働(同法36条1項)
    • 事業場外のみなし労働時間制(同法38条の2第2項)
    • 専門業務型裁量労働制の導入(同法38条の3第1項)
    • 年次有給休暇の計画的付与(同法39条第5項)
       
  2. 労働時間等の設定を改善するための取組み
     労働時間等設定改善指針では、各事業場で労働時間等の設定の改善について自主的に取組み、適切に対処するために必要な事項を示しています。各事業場で働く労働者の実態に応じ、指針に示される具体的な取り組み方を参考にしながら、労使で事業場の労働時間等のあり方を検討することが望まれます。
     
  • 労働者の抱える多様な事情や業務の態様に対応した労働時間等の設定
    • 変形労働時間制、フレックスタイム制を活用する
    • 専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制を活用する
       
  • 年次有給休暇を取得しやすい環境の整備
    • 年次有給休暇を取得しやすい雰囲気をつくる。意識を改革する。
    • 個人別年次有給休暇取得計画表を作成する。業務体制を整備する。取得状況を把握する
    • 年次有給休暇を計画的に付与する
    • 週休日と年次有給休暇とを組み合わせた2週間程度の連続した長期休暇の取得を促進する
    • 労働者の希望に応じて半日単位の年次有給休暇を付与する
       
  • 所定外労働の削減
    • 意識の改革、「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」を導入・拡充する
    • 代休の付与等により総実労働時間を短縮する
    • 時間外労働の限度基準を遵守する
       
  • 労働時間の管理の適正化
     
  • ワークシェアリング、在宅勤務等の活用
     
  • 国の支援の活用
    • 助成金制度の活用など
       
  1. 労働者の抱える個別の事情に配慮した労働時間等の設定改善のための取組み
     労働時間等の実態を把握するとともに、労働者の個人情報の取扱いに留意しつつ、労働者各人について配慮すべき事情を、必要に応じて把握することが望まれます。 
     
  • 特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者への配慮
    • 健康診断や面接指導の結果を踏まえた医師等の意見を勘案し、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を適切に講ずる。
    • 病気休暇から復帰する際に、円滑に職場復帰できるよう支援する
    • 所定外労働が多い労働者について、代休やまとまった休暇を付与する。業務を見直す。配置転換を行う。
       
  • 育児・介護を行う労働者への配慮
    • 育児・介護休業法を遵守し、周知する
    • 年次有給休暇の取得を促進する。時間外労働の削減により育児・介護に必要な時間を確保する。
       
  • 妊娠中及び出産後の女性労働者への配慮
    • 労働基準法の妊産婦に関する規定を遵守する。
    • 妊産婦が保健指導、健康診査を受けるために必要な時間を確保する。
       
  • 単身赴任者への配慮
    • 休日の前日の終業時刻を繰り上げる。または、休日の翌日の始業時刻を繰り下げる。
    • 休日前後に年次有給休暇を半日単位で付与する。
    • 労働者やその家族の誕生日や記念日などに特別休暇を付与する。
       
  • 自発的な職業能力開発を図る労働者への配慮
    • 有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇など特別な休暇を付与する
    • 始業、終業時刻を変更する。時間外労働を制限する。
       
  • 地域活動等を行う労働者への配慮
    • 特別な休暇を付与する
    • 年次有給休暇を半日単位で付与するなど。

 これらの取組みにより労務管理が煩雑になる、一時的にコストが増加するなど、運用は一筋縄ではいきませんが、生産性の向上にもつながりますし、賃金体系や人員配置を工夫している企業が増えています。

 例えば、日清製粉グループ本社では、定期異動や長距離出張を最低5年免除する代わり、賃金を2割減らす制度を2007年4月から始めました。未就学児を持つ営業職を意識した制度で、転勤があると育児と両立できない人を主に想定した制度で、他の社員が不公平に感じないようにも配慮したものとなっています。

 しかし、重要なのは、子どもを持つ労働者への両立支援だけではなく、それ以外の労働者へも私生活の充実のための支援をしていくことです。そうすることで、勤労意欲を高め、企業の競争力がアップするでしょう。


このテーマは、当研究所コンサルタント・大阪社労士事務所社会保険労務士の指導の下、大学コンソーシアム京都のインターンシップ大学生が記述した内容をベースにしています。著作権には注意を払っていますが、問題となる記載がありましたら、ご連絡ください。また、法的には、必ずしも最新の法令に適合しているとは限っていません。そのため、取扱いには十分ご注意をお願いします。

※労働契約法第3条第3項に「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」という規定が入っています。同規定を考慮していませんが、大筋では間違っていないと判断しています。人事サブシステムの設計・導入をする際には、是非参考にしてください。

2014-08-06 (水) 07:36:27
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