人事労務の小ネタ

飲酒運転

 自動車は、業務で、通勤で使われ、また従業員は私生活でも使う人が多い乗り物です。

 業務での使用に関しては、道路交通法により、自動車を5台以上保有する事業所は、当該事業所に1人、安全運転管理者を選任し、届出をしなければなりません。また、業務・通勤でも使用されることから、会社は、従業員への安全運転教育、車両の管理、運転者管理を徹底して実施するとともに、マイカー通勤の車両にも注意が必要です。マイカーが業務に使用されている場合には、社有車と同様に、会社に運行供用者責任と使用者責任が生じますので、マイカーの業務使用を黙認するようなことがあれば、会社は大きなリスクを負うことになります。したがって、車両管理規程とマイカー通勤管理規程を整備し、そのようなリスクを軽減していくべきだと考えられます。

 このように、ほとんどの会社では何らかの形で自動車を使用する以上、従業員がいつ飲酒運転を起こしてもおかしくありません。

 昨今、飲酒運転による痛ましい事故などが少なくなく、それに対する社会的な関心は高まってきています。2001年に飲酒運転に関する刑罰が厳格化し、飲酒運転による事故件数はかなり減りました。

 そこで、飲酒運転に対する社会的関心の高まりといった背景に加え、コンプライアンスが重視されるようになった今、企業は飲酒運転をした従業員に対し厳罰を下せるような体制を整える動きが出始めています。改めてコンプライアンス経営の見直しに躍起になっている企業も多いようです。

 酒類を扱う飲食業界や自動車に関連する運送会社、自動車メーカーなどでは以前から厳しい内規を設け、従業員に遵守を徹底させる事例が多かったようです。ある自動車メーカーでは、「メーカーがまず厳格に対応していかないとモラルが疑われ、不買運動にもつながりかねない」といった危機感も強いようですし、京王プラザホテルでは、「顧客に酒を提供する立場として社会的責任がある」と考えています。

 このような危機感の高まりは、こうした業界だけに止まらず、飲酒運転に対する社内処分を厳しくするためにはどうしたらいいのかといった相談が、法律事務所や社会保険労務士事務所に増えつつあります。これについては、就業規則に明文化することで対応していきます。

 業務中、例えば営業担当者などが就業時間中に業務に絡み飲酒運転事故を起こせば、企業が雇い主として責任を問われ(使用者責任、民法715条)、損害を賠償する必要も生じます。多くの企業では、就業規則に「故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えた場合」を懲戒解雇事由の一つにしているので、これに該当するとして処分することができます。

 むしろ、問題となるのが、休日など業務と全く関係ない場合の飲酒運転です。

 就業規則や服務基本規程などに明確な定めがない限り、これまでの裁判例をみますと、従業員の私的な時間における飲酒運転につきましては、原則として会社の秩序維持にとって重大な悪影響を与えるものではなく、過失的行為によるものであることを理由に懲戒処分に付すことはできない、つまり懲戒権の濫用に該当する、というのが基本のようであります。こういった事例は昭和48年(住友セメント事件)、49年、52年頃にみられます。ただし、コンプライアンスの重要性が叫ばれるようになった現在でも、同様の判断が下されるか否かは疑問です。

 このように、就業規則等に定めがないと懲戒解雇といった対応も難しくなる可能性が高いので、飲酒運転についても就業規則に懲戒解雇事由として明記するのが一つの対処法だといえます。就業規則では、通常、無断欠勤や会社の秩序を乱した場合など、どんな事例が懲戒処分に相当するかを規定しているので、その規定に「飲酒運転をした場合」という項目を加えるとよいでしょう。

 しかし、労働契約法では客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇を無効とすると規定しています。したがって、上記の住友セメント事件のように、休日に飲酒事故を起こした従業員の懲戒解雇について、事件が報道されず会社の社会的評価は棄損されていないことや、他の従業員からも処分が重いとの意見もあるなどとして懲戒解雇を無効とした裁判例もあります。このことから、飲酒運転に対する社会の意識変化や、社内の他の処分例とのバランスを考慮しながら対応していくべきだといえるでしょう。

 何より重要なのは、飲酒運転を許さないという姿勢です。コンプライアンスの観点から、企業が就業規則などを通じて飲酒運転を許さない姿勢を従業員に示せば、飲酒運転減少にもつながるでしょう。コンプライアンス経営が求められる今、飲酒運転にも適切に対応していくことが企業に求められているのです。


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2014-08-05 (火) 14:06:43
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