内部告発・内部通報制度
近年、消費者の信頼を裏切る企業の不祥事が続発しています。食品の偽装表示事件や自動車のリコール隠し事件に見られるように、これらの犯罪行為や法令違反行為の多くは、事業者内部の労働者や、元従業員などからの通報(内部告発)を契機として明らかにされました。また、サービス残業による不払い残業代や法令で定められた時間をはるかに超える長時間残業の問題など、労働条件を巡って従業員が労働基準監督署に通報した結果、当局による立ち入り検査が行われるケース増加しています。
日本では、内部告発を、「会社に対する恩義を忘れた」とか「仲間を売る」といったようにネガティブに受け止めがちです。しかし、現実問題として内部告発がなければ、不正行為自体が企業内部に隠蔽されたまま、闇に葬り去られるか、顕在化が遅れるかする事態を招いてしまうだけです。
このようにして、ネガティブ情報がステークホルダーに対して適切に開示されない場合、社会に対する悪影響が拡大してしまうことから、内部通報制度を整備していく必要があります。
内部通報制度とは、企業が、社内における法令違反その他不正行為の発生に関し、内部通報の仕組みを整備し、企業が内部通報者の保護を制度的に保障するとともに、通報対象事実を調査し、早期に不正行為の是正や適切な対策をとり、もって企業のリスク管理と法令遵守を図る制度をいいます。この制度の目的は3つあり、1つは、不正が起きないように内部通報制度自体が抑止力として働くこと、2つ目が、将来の不正につながるリスクを早期の段階で把握し「不正の芽」を摘んでおくこと、3つ目が、既に存在している不正に対して的確な対応を行うことでステークホルダーおよび自社への悪影響を最小限に食い止めることです。
実際に、企業が従業員からの内部通報を受けて対策を練った上で迅速な情報公開をするのと、経営陣が事実を知らないままいきなりマスコミで取りざたされ、批判の矢面に立つのでは、対外的な印象の面でも的確な対応で被害を最小限に食い止める上でも、歴然とした差が生じます。後述の公益通報者保護法も内部通報制度の整備を促進させる内容となっていることからも、内部通報制度を整備していくべきと考えられます。
実際に、内部通報制度を設計していく際には、次の点がポイントとなります。
- 通報受理窓口
内部通報の受理窓口を設置することが必要です。窓口受理者は企業内スタッフではなく、弁護士等社外の第三者に委嘱するのが相当です。通報者の不安を払拭することで、不正事実の情報が探知されずに推移したり、外部へ内部告発することを回避することができます。 - 通報者の保護の制度的保証
公益通報者保護法は通報者の保護をその目的としていますが、通報者が内部通報によって不利益な取扱い(解雇、降格、減給、賞与カットなど)を受けないことを明記した社内規程も制定すべきです。内部通報へのインセンティブを与えるためにも重要となってきます。 - 規程の整備と制度の開示
内部通報した場合、受理窓口からどのような手続で調査され、どのように対応されるのかの仕組みを明確にして全従業員に開示しておくことで、通報者の不安を払拭することができます。 - コンプライアンス委員会
内部通報された情報に基づき事実関係を調査し、判明した事実関係に基づきどのような措置を行うのかを審議する機関を設置することが必要となります。当該機関は代表取締役もしくは取締役会の諮問機関としての位置付けが相当であって、その構成メンバーも、内部通報の窓口として弁護士が受理者となる場合には当該弁護士を選任する等社外委員を構成メンバーに含めるのが望ましいでしょう。 - その他
内部通報制度を有効に機能させるために、通報者の匿名性確保、内部通報前置主義の徹底、一般相談窓口との併用等が求められています。
このような内部通報制度を整備し、通報者の保護を図らなければ、従業員が行政機関やマスコミなど事業者外部へ通報(内部告発)することにもなりかねません。
そして、重要なのは、内部告発もしくは内部通報をした従業員が、一定の場合には公益通報者保護法によって保護されるということです。
公益通報者保護法は、公益のために通報すべき事実として企業の犯罪行為や法令違反を社内外、行政機関などに通報した労働者を保護し、コンプライアンスを図ることを目的とした法律です。平成18年4月に施行されました。
公益通報の対象となるのは、次の事実が生じ、またはまさに生じようとしている場合です。
- 個人の生命または身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む)に規程する罪の犯罪行為の事実
- 別表に掲げる法律の規程に基づく処分に違反することが、1.の事実となる場合における当該処分の理由とされている事実等
【別表】
刑法、食品衛生法、証券取引法、廃棄物処理法、個人情報保護法、その他政令で定めた400を超える法律
公益通報者(派遣労働者や取引先の従業員も含む労働者、公務員も)の保護としては、次のものがあります。
・公益通報をしたことを理由とする解雇の無効
・労働者派遣契約の解除の無効
・その他の不利益な取扱い(降格、減給、派遣労働者の交代を求めること等)の禁止
通報先に応じて、保護されるための要件は異なります。「不正の目的でないこと」は通報先にかかわらず共通要件です。
- 事業者内部(会社内)
- 不正の目的でないこと
- 行政機関
- 不正の目的でないこと
- 真実相当性を有すること
- 事業者外部(マスコミなど)
- 不正の目的でないこと
- 真実相当性を有すること
- 一定の要件(内部通報では証拠隠滅のおそれがあること、書面による内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知がないこと、人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険があること等のうちいずれか)を満たすこと
また、公益通報者保護では、公益通報者には、他人の正当な利益等を害さないようにする努力義務を、事業者には、書面による公益通報に対して行った是正措置等について公益通報者に通知する努力義務を、それぞれ課しています。
公益通報者保護法の趣旨をきちんと理解し、コンプライアンスの促進に向けて、内部通報制度の整備などに取り組んでいきましょう。
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2014-08-08 (金) 07:54:59
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