人事労務の小ネタ

CSRとは

 CSR(Corporate Social Responsibility)とは、一般的には「企業の社会的責任」と言い換えられますが、取引先や一般消費者、投資家(株主)、従業員などの利害関係者(ステークホルダー)に対して責任ある行動をとるとともに、これらの者に対する説明責任を果たしていくことをいいます。最近では、中長期的な経営課題としてCSRを考えている経営者も増えており、様々な取組みが行われています。日本経団連の企業行動憲章でもCSRの指針が示されています。

 では、なぜ企業は利潤の追求のみならず、一見すると利潤追求とは相反しかねない、相応の経済的負担をしてでも社会的責任を負わねばならないのでしょうか。その背景には「企業が中長期的に成功するためには、社会が安定し経済がグローバルレベルで持続的に発展することが必要である」との認識があります。つまり、短期的な利潤の追求だけでなく、事業を永久的に継続(going concern:ゴーイング・コンサーン)させるためには、国際社会・地域社会の安定が前提となり、そのメリットを享受する企業が当然に一定の責任を果たす義務があるということなのです。目先の利益にとらわれていては、長期的な繁栄は望めないということです。

 また、社会が豊かになるにつれて、経済的成長や金銭的成功以外にも多様な価値観が生まれ、よい企業というものが必ずしも大企業や儲かっている企業であると、認知されないようになっていることも大きな要因だと思われます。

 利潤の追求を超えて、よりよい行動、正しい行動をすることがよい企業であるとの社会的要請に応えることで、社会から評価され、結果として企業価値を高めるようなマネジメントが必要であると認識されるようになってきています。
 
 また、CSRを別の視点から捉えると、「あらゆるステークホルダーに配慮した企業活動を行う」ということとなります。

 CSRのステークホルダーとしては、国民・地域社会、顧客・消費者、取引先、マスコミ、全世界の人々・国際社会、株主・投資家、従業員、国家・行政などが考えられます。これらすべてのステークホルダーに対して説明責任を負うとともに、すべてのステークホルダーが有する多様な価値観を共有しうるWin-Winの関係を構築するということが、CSRを果たすということになっていくでしょう。具体的な取組み例としては、顧客や消費者に足しては個人情報保護や誠実な消費者対応など、株主などには透明性のある会社経営など、従業員に対しては雇用創出・維持や労働環境の整備など、社会に対しては環境への配慮やボランティア活動支援などが挙げられます。

 そのため、これまで目を向けてこなかった、あるいは相対的に重視していなかったステークホルダーにスポットライトを当てることが必要となってきます。株主、取引先、金融機関などをステークホルダーの中心に据えていた会社は、CSR経営を促進するに当たって、顧客や社会、従業員等も重視していく、といった具合です。したがって、企業がCSRに取り組む際には、まず自社のステークホルダーを洗い出し、どこを重点対象とするかを見極めていく必要があります。また、現実問題として、限られた経営資源と時間の中で実効性の高いCSR経営を進めるためには、優先順位をつけて行っていくべきでしょう。その際には、GRI(Global Reporting Initiative)がGRIサステナビリティ・レポーティング・ガイドラインにおいて示すパフォーマンス指標を参照にするとよいでしょう。

 このようにCSR活動に取り組むことは、何も大企業に限ったことではありません。たしかに少なからず費用や時間がかかるのですが、CSRを果たすことで、リスク回避や企業価値向上につながるからです。

 リスク回避については、ここ数年、企業倫理や法令を守らなかったり、環境対策を怠るなどした結果、重大な事件を引き起こし、または不祥事が表面化するといった、社会に悪影響を与えるようなことが多発しています。このような場合、その企業は、地域社会、場合によってはグローバルな規模での痛烈な批判を受け、消費者による不買運動や、取引停止に追い込まれた末に、短期的な業績が悪化するだけでなく、最悪の場合は企業の存続すら危うくなることになります。したがって、リスクマネジメントの一環としてもCSRに取り組んでいく必要があるでしょう。

 また、CSRへの取組みが、取引先との取引条件となったり、消費者による商品の選別の際に重視されたりと、CSRがスクリーニング基準として使われる場面が増えてきています。グリーン調達、エコ調達が普及し始めているのがその証左でしょう。サプライチェーン・マネジメントにより、環境基準を満たしていない企業は取引中止に追い込まれる可能性も大いにあります。したがって、今後はビジネスを継続するため、さらには他社との競争優位性を獲得するためにもCSRに積極的に取り組んでいく必要があります。

 企業価値の向上については、例えば、環境に配慮した商品が環境問題に敏感な消費者を中心に受け入れられたり、女性社員を積極的に活用する企業が、女性ならではの視点からのヒット商品を生んだりすることで、CSRを果たすだけでなく、自社の利益、ひいては企業価値の向上につながります。CSRは将来的な企業価値向上への「投資」として、取り組んでいくことも考えられます。

 また、SRI(社会責任投資)が注目されてきている今、CSRを果たし、経済的なメリットを享受することも考えられます。

 CSRは世界的にも注目されています。ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)はCSRを国際規格化することにしており、ISO26000として発効されています。

 既に述べたように、CSRに含まれる内容は様々ですが、次にいくつか例としてあげておきます。

  • コンプライアンス(法令遵守)を促進し、倫理的行動を取ること
  • よりよい商品、サービスを提供すること
  • 地球環境の保護に貢献すること(エコ調達、クリーン調達など)
  • 収益を上げ、税金を納めること
  • 所在する地域社会の発展に寄与すること
  • 人権を尊重、保護すること
  • 株主やオーナーに配当すること
  • 人体に有害な商品、サービスを提供しないこと
  • 雇用を創出すること
  • 新たな技術や知識を生み出すこと
  • フィランソロピー(慈善的な寄付行為を通した社会貢献活動)やメセナ活動(フィランソロピーのうち、文化・芸術分野における貢献)を通じて社会に貢献すること
  • 世界各国の貧困や紛争の解決に貢献すること

 なお、コンプライアンスとCSRの関係についてですが、コンプライアンスはCSRの一環として捉えていけばよいでしょう。詳しくみると、企業が社会的責任を果たしていくために、まず最低限果たさなければならないのがコンプライアンスということになります。企業倫理を蔑ろにしている企業がいくら環境問題や社会貢献に力をいれていると言ったところで、社会には評価されません。つまり、コンプライアンスはCSR上最低条件であるとともに、CSRを支える重要な基盤となるのです。

 したがって、CSR経営を成功させるためには、コンプライアンス経営から着手し、段階的に取り組んでいくことが重要となります。

 このようなCSRへの取組みを行うためには、社内での体制作りが欠かせません。内部統制システムの構築、CSR委員会やコンプライアンス委員会の設置といったCSR推進体制を作っていくべきでしょう。また、CSR経営を役職員に浸透、徹底するためには、わかりやすい言葉で自社のCSR理念を述べている「CSR憲章」を制定するとよいと思われます。さらに、CSRレポートを作成し、自社のCSRへの取組みをステークホルダーに対して具体的に示すとともに、その取組み結果について説明し、アピールしていくとよいでしょう。


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2014-08-05 (火) 13:24:02
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