人事労務の小ネタ

CSRレポート

 CSRレポート(CSR報告書)とは、その企業のCSRに対する基本的な考え方から具体的な取組内容と成果までを盛り込んだ資料です。その目的は、次の二つです。

 一つ目の目的は、ステークホルダーとの対話のための情報発信です。そもそもCSR経営とは、様々なステークホルダーとの対話を通じて、ステークホルダーが持つ意見や期待、新たなリスクなどを察知し対応し、社会の変化に柔軟に対応しながら持続的な経営を行おうとするものです。こうした対話を行うためには、まず、企業がどんな考えを持ち、どのような取組みを行っているのか、という情報の発信が必要になります。

 二つ目の目的は、自社のCSR活動の自己チェックです。CSRレポートを作成するためには、自社のCSRに対する考え方、ステークホルダーの捉え方を整理したうえで、全社で行われている取組みとその成果を収集する必要があります。こうしたプロセスは、自社のCSRの実態や成果を把握し、評価したり見直したりする機会になります。

 CSRレポートの書式は自由ですが、主として次の項目をカバーするのが一般的です。また、実際の作成に当たってはGRI(Global Reporting Initiative)ガイドラインを参考にするとよいでしょう。

  1. CSRについての基本情報
    1. 対象となる組織(連結・単体・取引先等)
    2. CSRの範囲、対象とするステークホルダー
    3. CSRを推進するための組織体制、責任部署
    4. 報告対象期間
  2. CSRについての基本方針及びCSR戦略
    1. 企業のCSRに対する姿勢
    2. トップメッセージ(経営者のコミットメント)
    3. 情報開示ポリシー
  3. 対象分野別の短期/中長期の具体的な実行計画および目標値
  4. 計画および目標に対する進捗度/達成度
  5. 具体的な改善計画
  6. 報告書の信頼性(第三者によるチェック)

 CSRレポートは、一方通行の情報発信になってしまいかねないので、報告書の信頼性を担保するうえでも、6.は重要です。大学教授やNGO、NPOなどの有識者から評価を受け、検証・審査も各種認証機関や監査法人系専門機関から受けるとよいでしょう。また、消費者や地域社会といったステークホルダーからの評価を、アンケート調査やヒアリングなどによって受けるのも信頼性を確保するとともに、ステークホルダーコミュニケーションの観点から好ましいと言えます。

 このようにCSRレポートを用いることでステークホルダーに情報開示を行うことができます。しかし、CSRの取組みは範囲が広く、効率的にステークホルダーへの説明責任を果たすための情報開示としては、HP掲載などの手段を用いて、そのステークホルダーが特に関心の深い分野についての情報を容易に入手できるようにすることが望まれます。CSRレポート自体も、HPからの閲覧を可能としている企業が大変多いのです。
 
 また、CSRレポートが一方通行の情報発信という点を鑑みれば、それを補うものとしてステークホルダー・ミーティングを併せて行うことも有効です。ステークホルダー・ミーティングとは、自社のCSRの取組みをステークホルダーに伝え、ステークホルダーからの期待や意見を集めるために、対面で双方向のコミュニケーションをとる機会として開催されるものです。対面であるため、短時間で様々な意見を集めることができ、またステークホルダー同士の意見交換の中から、さらに深い意見を引き出せる可能性もあるという特徴を持ちます。ただし、時間や参加者数の制約上、多くの詳細な情報を伝えたり、出された意見がそのままステークホルダーの代表的意見かどうかを判断したりすることは難しいでしょう。

 ステークホルダー・ミーティングの実施方法としては、大きく次の二通りを挙げることができます。一つ目は、様々なステークホルダーに参加してもらう方法(マルチ・ステークホルダー・ミーティング)であり、もう一つの方法は特定のステークホルダーを対象にして実施する方法です。

 マルチ・ステークホルダー・ミーティングは、通常、各ステークホルダーを代表するような参加者をそれぞれ数名ずつ集めて開催されます。広く様々なステークホルダーとのコミュニケーションをとりたい場合や、ステークホルダー間の意見交換を重視する場合などにこの形式が選択されます。

 一方、特定のステークホルダー(例えば消費者、取引先など)と意識的に深いコミュニケーションを行いたい場合や、普段はあまり接する機会の少ないステークホルダー(例えば地域住民、学生など)とのコミュニケーションを確保したい場合に行われます。

 ステークホルダー・ミーティングでとりあげる内容は、自社のCSR活動を知ってもらったり、CSR活動に対する意見や希望を聞き取ったりという程度のものから、自社が抱える課題について議論をし、提案を出してもらうといった、より積極的な関与を求めるものまでさまざまです。ここには、企業がステークホルダーの意見をどの程度受け入れるかという姿勢が表れると言えます。

 ここで重要なのは、受け取った意見に対するコミットメントです。意見をもらっても、レスポンスを返さないのでは、良好なコミュニケーションは構築できません。ステークホルダー・ミーティング開催後のできるだけ早いタイミングで意見に対する回答を示すといった具合でかまいませんし、また、そうしたやり取りを可能な限りで公開していくことが、コミュニケーション構築のキーポイントとなります。

 CSRレポート、ステークホルダー・ミーティングなどを用い、ステークホルダーへの説明責任を果たしたり、コミュニケーションを深めたりすることで、よりCSR経営をよりレベルの高いものとしていきましょう。


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2014-08-05 (火) 22:43:43
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