時間外労働の上限規制に対応するテクニック

時間外労働(残業)の上限規制が、平成31年4月1日から施行されます。中小企業においては1年遅れの2020年(平成32年)4月1日からの施行です。

●上限規制
労使協定に特別条項がある場合においても、時間外労働時間の限度を年720時間(月当たり60時間)とします。
かつ、年720 時間以内において、一時的に事務量が増加する場合でも、最低限、上回ることのできない上限として、次のような縛りを設けます。

  • 休日労働を含み、2~6か月平均で80時間以内
  • 休日労働を含み、単月で100 時間未満
  • 原則である月45 時間(一年単位の変形労働時間制の場合は42時間)の時間外労働を上回る回数は、年6回まで

大前提の上限の原則は、
月45時間、年360時間
です。法定化されます。

1日の延長時間の限度、休日労働の限度はありません。
※「金曜の夜18時から徹夜でシステムの入れ替えをして、土曜日(所定休日で法定外休日)の午後11時(23時)に終わったよ」というような場合は、金曜の18時から土曜日の23時が時間外労働です。6+23=29時間になります、本当に寝ずにずっと仕事をしているのなら。残業開始時点が重要です。
(一部ブラックな表現がありましたので、修正しました。)

この対策は何度も書いているのですが、また記録しておきます。

戦略人事研究所・時間外労働の上限規制をクリアするテクニック

1.まず、時間外労働・休日労働を減らせるように、職場環境・業務分析を行います。

  • 部署ごと、従業員ごとに時間外労働や休日労働が多いのかを調査します。(時間数のチェック)
  • 特定の部署、特定の従業員に時間外労働等が偏っている場合は、業務、仕事が属人化している傾向が見えます。
    • 全社的に時間外労働等が多いのであれば、一般的には人員不足です。
    • 特定の部署・従業員に時間外労働等が多いのであれば、根本原因を探るのが先です。
    • 特定の職種に時間外労働等が多いのであれば、人員不足、業務量が過多、書きたくありませんが職務遂行能力の不足が疑われます。
  • 裁量労働制などの時間制度を適用できないか、検討します。
  • 当たり前のこととして、時間外労働、休日労働は事前申請制に。
  • 許可のない社内滞留は、施設管理者が指摘する。
  • アウトソーシングできる業務については、業務委託・請負・IT化も検討しましょう。

2.就業規則を見直します。

  • 始業時刻・終業時刻の設定は適切か、始業・終業の繰り上げ繰り下げは規定されているか。
  • 遅刻の場合の残業について、相殺できるような規定があるのか。
    (この規定がある就業規則は、非常に少ないと思われます。)
  • 法定休日は、例えば毎週日曜日と規定している場合は、土曜日に変更。4週のうち後の方の4日の休日を法定休日とするという規定の場合は、「前の4日」に変更。
    • 所定休日の土曜日に出勤が多いような場合、フルタイム勤務させる可能性が多い場合は、時間外労働になります。休日労働ではありません。法定休日に労働させた場合のみ休日労働になりますので、法定休日を変更して見かけの時間外労働を減らします。
    • この部分、ハッキリさせたくないなら、「休日労働させた場合は割増賃金135%を支払う」とすれば、ボヤッとなります。法定休日の規定はしません、あるいは無くします。
       
      お分かりのように、土日が休みの完全週休2日制の場合で、日曜日を法定休日に指定している場合、土曜日に働かせると「時間外労働」になります。土曜日にフルタイム=8時間なり7時間半なりを働かせたいのなら、1日の延長時間を3時間や5時間と規定していると、既に労働基準法違反です。
       
      不利益変更して良いのであれば、祝日を出勤日に変更するなどの露骨な対策も取れますが、おすすめできません。

3.評価制度の見直し

  • 残業時間・休日出勤の多い少ないを評価します。少ない方を良い評価にします。
  • 管理職も、部下のマネジメントができているのか。時間外労働等が少ない管理職が優秀と評価されてしかるべきです。
     
    年次有給休暇の取得日数も同じ考え方で対応できます。

4.アラート

  • 第1段階が月30時間
    (年360時間を月当たりにした場合)
  • 第2段階が月45時間
     
    ↓↓ 特別条項での対応です。下記番号のいずれかの健康確保措置が必要です。
    (1)労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
    (2)労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。
    (3)終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。【勤務間インターバル制度】
    (4)労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
    (5)労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
    (6)年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
    (7)心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
    (8)労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
    (9)必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
    (10)その他
    総務部長や管理部門に「相談窓口」を設置すれば追加の費用は掛からず、(7)と記載するのは楽ですが、実効性があるのかと言われれば…。
  • 第3段階が月60時間
    時間外労働はクリアしていても、休日労働をフルタイムで3日以上させると月80時間の制限に引っ掛かります。
  • 第4段階が月80時間(休日労働を含む)
  • 最終が月99時間(休日労働を含む)

5.36協定への記載
今まで通りで良いのか、チェックしましょう。
大企業は既に対応・対策済みでしょうが、中小企業はまだ1年ちょっと猶予があります。それまでに、どうするのがベターか考えましょう。
 
建設業やクリニック・病院、運転業務などの例外を除けば、中小も2020年度の施行ですから。
 
ついでに書いておくと、36協定の労働者側の締結当事者のチェックも今後は厳しくなってくるものと思われます。民主的に適正に従業員代表を選出してください。


「できない。」
いえ
「やるんだ。」という代表者様・社長様の号令(通達)が一番効果的です。いわゆる、意識改革、認識の変更です。プラス、その意識改革を労働者である管理職層にも浸透させること。これができれば、残業の上限規制はクリアできたも同然。
(意識や認識を変えてもらうのは、ご本人様にしかできません。外部のコンサルタントができるのは、周辺の環境や制度についてアドバイスすることだけです。)

もう1回書いておきますが、36協定の記載次第では、現状でも労働基準法違反になっている場合があります。この部分は、労働基準監督署に36協定届を提出しただけではチェックされません。チェックできないと書いた方が正確です。

詳しくは、弊所・戦略人事研究所へご相談ください。
36協定届の記載内容を見ただけでは分かりません。関係書類の確認が必要になって参りますので、お時間とフィーが必要です。


おまかせください

●労働環境の改善コンサルティング・働き方改革の支援(長時間労働の見直し含む)
●人事諸制度のReborn(再生)
●各種「人事労務」テーマのセミナー講師
安全管理措置コンサルティング・特定個人情報取扱規程の策定
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株式会社 戦略人事研究所

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