人事労務の小ネタ

ポジティブ・アクション

 少子高齢化社会が進む日本において、人的資源としてますます重要となるであろう女性を活用しきれない、優秀な女性を採用できない企業は、中長期的に競争力が低下していくことが予想されます。短期的にも女性をうまく活用できている企業は、優秀な女性社員を確保し動機付けることで会社業績によい影響を及ぼすとともに、女性顧客や消費者に大いにアピールできています。女性がいきいきと働く会社は、女性が半数を占める社会から信頼され、よいブランドイメージを獲得できるでしょう。

 女性を活用する基盤づくりとして、企業は男女雇用機会均等法を遵守したうえで、育児介護休業法、両立支援、ポジティブ・アクションなどを実施していく必要があります。ここでは、ポジティブ・アクションについて見ていくこととします。

ポジティブ・アクション」とは、固定的な性別による役割分担意識や過去の経緯から男女労働者の間に事実上生じている差があるとき、それを解消するための企業が行う自主的かつ積極的な取組みのことです。「アファーマティブ・アクション」とも言います。

単に女性だからという理由だけで女性を「優遇」するものではなく、これまでの慣行や固定的な性別の役割分担などが原因で、女性は男性よりも能力発揮しにくい環境におかれている場合に、こうした状況を是正するための取組みです。

 たとえば、勤続年数が長い女性労働者が多数勤務しているにもかかわらず、管理職になっている女性が極めて少数であるというような場合に、「3年間で女性管理職20%増加」というような目標を掲げ、女性の管理職候補者を対象とする研修の実施、女性に対する昇進・昇格試験の受験奨励や昇進・昇格基準の明確化等の取組みを行っていくことが考えられます。

 ポジティブ・アクションの必要性とその効果については、女性の活躍推進協議会において、次のように提言されています。

Ⅰ 労働意欲、生産性の向上-性にとらわれない公正な評価により活力を創出-

 男性優位の企業風土がある場合に、そのような風土を見直し、能力や成果に基づく公正な評価を徹底することは、女性社員の労働意欲と能力発揮を促すきっかけとなります。また、女性の活躍が周囲の男性社員にも良い刺激を与え、結果的に生産性の向上や競争力の強化をもたらすことにつながります。

II 多様な人材による新しい価値の創造-多様な個性による新たな発想-

 市場が多様化する中で、これからの新しいニーズに対応した商品、サービスを提供するための新しい発想が求められています。男女に関わりなく、多様な個性をもった人材を確保し、その能力を最大限に発揮させることは、これまでにない新しい発想を生み出す可能性があります。

III 労働力の確保-労働者に選ばれる企業へ-

 少子・高齢化が進んでいる我が国においては、労働力不足が見込まれており、女性の活躍が大いに期待されます。ポジティブ・アクションを積極的に実施する企業は、働きやすい企業、男女に関わりなく公正に評価される企業として認知され、選ばれることとなり、幅広い高質の労働力を確保することができるのです。

IV 外部評価(企業イメージ)の向上-人を大切にするというイメージの獲得-

 ポジティブ・アクションを実施し、社員の能力発揮と育成に積極的に取り組む企業姿勢は、経営の持続的発展が期待できる企業として、顧客や株主、取引先等の利害関係者からの信頼や好意的な評価を得ることができます。

 ポジティブ・アクションの取組みとしては、以下のようなものがあります。

  • 女性の採用拡大
    • 職場ごとに女性従業員比率の数値目標を設定し、計画的に女性比率を高めていく
    • 男女均等な選考ルールを採用担当者に徹底させるための研修を実施する
    • 女性の応募・採用が少ない職種の求人方法を再検討する
    • 全国転勤等女性が事実上満たしにくい募集・採用条件を見直し、不必要なものについて廃止する。
  • 女性の職域拡大
    • 女性がいない、又は少ない職種、職域への女性の配置のために必要な教育訓練を実施する
    • 建設業、製造業等の作業における体力面での個人差を補う器具、設備等を導入したり、作業方法を再検討する
    • 女性がいない職種に初めて女性を配置する場合は、疎外感や孤独感を持たせないよう複数人を配置する
    • 女性を初めて受け入れる、または受入れ経験の乏しい管理職に対する研修を実施する
  • 女性管理職の増加
    • 女性がいない、又は少ない一定の役職への昇進・昇格試験を受験するように女性に対して奨励する
    • 女性の管理職候補者を対象とする研修を実施する
    • 昇進・昇格基準の明確化、透明化を図る
    • 所属長、人事担当者等とのキャリア形成にかかる個別面談を実施する
  • 女性の勤続年数の伸長
    • 育児・介護休業法で義務づけられた制度を上回る両立支援措置を導入する
    • 配置転換に際して、小学生以下の子を持つ労働者には転居を伴なう異動をさせない等家族的責任を負う労働者への配慮を行う
  • 職場環境・風土の改善
    • 女性のみが早めに出社して事務所の掃除を行うこと等性別役割分担意識に基づく慣行を見直す
    • 「事実上の社内男女格差」を発見し改善するための、女性メンバーも含めたプロジェクトを設置する
    • 男女の役割分担意識解消のための意識啓発研修を実施する

実際に、ポジティブ・アクションに取り組む際には、次のことがポイントとなります。

  1. 経営トップのリーダーシップ
     ポジティブ・アクションの取組が進む企業には、経営トップのリーダーシップがあります。 先行き不透明な今日、社員は企業トップの発言・行動に強い関心を寄せています。そんな今だからこそ、経営トップはリーダーシップを発揮し、男女区別なく意欲と能力を平等に評価し、活躍の機会を提供するための環境を作ることが必要になっているのです

     
  2. 会社一丸となって取り組むこと
     男女雇用機会均等法の施行後、徐々に女性の活躍の場が広がってきました。しかし、いくら意欲のある女性が努力しても、会社全体が意識改革を行い、取り組んでいかなければ、女性の昇進や昇格にはつながりません。ポジティブ・アクションを進める企業の多くは、「女性活躍推進室」の設置など、社内にプロジェクトチームを設けて、女性の活躍を推し進めていっています。
     
  3. 具体的で分かりやすい目標作り
     「男性と女性の平等を実現する」といった抽象的な目的ではなく、「管理職における女性比率を○○%にする」「女性の定着率を上げる」等、具体的な目標を立てることが効果的です。さらに結果が出た段階で取組を評価し、次に活かしていくという繰り返しによって、ポジティブ・アクションは進んでいます。

また、抜擢した女性社員がプレッシャーや周囲のやっかみでつぶされないように、メンタリング制度(経験の豊富な社員が、経験の浅い社員に対して、キャリア開発を目的としたアドバイスやサポートを行う制度)やキャリアカウンセリング体制の充実を図り、サポートしていく必要があります。

このようなポジティブ・アクションの取組みは、大企業に限った話ではありません。人を大事にして活用していくことの大切さに、大企業も中小企業も違いはありません。最近では、中小企業でも、今まで女性がいなかった部門に女性を配置したら職場が活性化したなどの事例も出てきています。優秀な人材確保などにもつながりますし、経営者のリーダーシップの下、積極的に望んでいくべきでしょう。
 
なお、ポジティブ・アクションに取り組む事業主に対しては、国が相談等の援助を実施していますが、2006年の均等法改正により、国の援助対象として「ポジティブ・アクションの実施状況の開示」が「女性労働者の配置等の状況分析、分析に基づく改善計画の作成、計画に定める措置の実施、実施体制の整備」に加えられました。

また、優秀な女性確保のためには、ポジティブ・アクションはもちろん、働く環境の整備などが効果的でしょう。フレックスタイム制、短時間正社員など、多様な働き方を可能とする労働時間制を導入したり、両立支援を行っていくことが欠かせません。また、機能的でデザイン性の高い作業服を取り入れ、女性社員の確保につなげた企業もあります。


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2014-08-05 (火) 10:02:17
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