労働時間の適正管理
労働基準法では、労働時間についてそれぞれ規定していますが、現状では、働いた時間にきちんと対応した賃金が支払われていなかったり(サービス残業=賃金不払残業)、恒常的に長時間労働が行われているケースも多く見られます。このような問題を解消するためには、まず、使用者が各労働者について労働時間をきちんと把握することが重要です。また、36協定締結・届出も当然適正に行わなければなりません。
厚生労働省が作成した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」によると、労働基準法では、労働時間(1日8時間、1週間40時間が原則)、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者には、労働時間を適切に管理する責務があります。使用者が講ずべき措置の内容は次の通りです。
- 労働日ごとに始業・終業時刻を確認・記録する
労働時間を適正に把握するためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働者の労働日ごとの始業、終業時刻を確認し、記録することにより何時間働いたかを把握・確定しなければなりません。
- 始業・終業時刻の確認と記録は、原則として客観的な方法によって行う
【労働時間を確認・記録するための客観的な方法】- 使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業・終業時刻を確認・記録する(該当労働者からも併せて確認するとなおよい)
- タイムカード・ICカード、IDカード、パソコン入力等の客観的な記録を基礎として確認・記録する
※このような客観的な方法ではなく、自己申告制によらざるを得ない場合は、使用者は以下の措置を講じなければなりません。- 導入前に対象労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正な自己申告を行うなどについて十分説明する
- 申告された労働時間が、実際の労働時間と合致しているか否か、随時実態調査する
- 適正な申告を妨げる目的で、時間外労働の上限を設定しない。時間外労働削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払いなどの措置が適正な申告の阻害要因となっている場合は、改善措置を講ずる
- 労働時間に関する記録を保存しておく
- 労働時間の記録に関する書類(タイムカードの記録・残業命令書・残業報告書・労働者自ら記録した報告書など)を最後の記録がされた日から3年間保存すること(労基法109条)
- 賃金台帳(労働日数・労働時間数・時間外労働時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数を記録)にも労働時間を記録しておくこと(労基法108条)
- 労務管理の責任者は労働時間管理に関する職務を行う
・労務管理を行う部署の責任者は、労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握とその解消を図る
- 労働時間等設定改善委員会などを活用する
自己申告制による労働時間管理が行われている場合や、複数の労働時間制が採用され、それぞれ把握方法が定められている場合には、労使協議組織(労働時間等設定改善委員会など)を活用し、労働時間の現状を把握して問題点の解消策を検討する。
この労働時間の適正把握に関する基準は、事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)、専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)、企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)、管理監督者等(労基法41条)には適用されません。ただし、これらの労働者についても、健康確保の点からは、使用者には適正な労働時間管理を行う責務があります。
また、労働時間を適正に管理する上で、36協定の締結・届出は重要です。これは、法定の労働時間(1日8時間、1週間40時間が原則)を超えて労働させる場合、または、法定の休日に労働させる場合には、あらかじめ労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結し、事前に所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないというものです。
36協定において協定する項目は次の通りです。
- 時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的な事由
- 対象労働者の業務、人数(業務の区分を細分化することにより、時間外労働の必要のある業務の範囲を明確にすること)
- 1日についての延長時間のほか、1日を超え3ヶ月以内の期間及び1年間についての延長時間
- 休日労働を行う日とその始業・終業時刻
- 有効期間
なお、36協定の締結・届出では、事業場ごとに締結しなければならないのに本社のみ締結している、毎年きちんと届け出ていない、労働者代表が適切な手続きで選出されていないといった法令違反が少なくありません。36協定を正しく締結・届け出ることは基本中の基本ですので、適正に行わなければなりません。
また、労働者の福祉、時間外労働の動向などを考慮して、次のような労働時間の延長の限度等について基準(告示)が定められています。
延長時間は、次の表の左の欄の「期間」の区分に応じて、右の欄の「限度時間」を超えないとしなければなりません。
一般労働者の場合 | 対象期間が3ヶ月を超える1年単位の 変形労働時間制の対象者の場合 | ||
期間 | 限度時間 | 期間 | 限度時間 |
1週間 | 15時間 | 1週間 | 14時間 |
2週間 | 27時間 | 2週間 | 25時間 |
4週間 | 43時間 | 4週間 | 40時間 |
1ヶ月 | 45時間 | 1ヶ月 | 42時間 |
2ヶ月 | 81時間 | 2ヶ月 | 75時間 |
3ヶ月 | 120時間 | 3ヶ月 | 110時間 |
1年間 | 360時間 | 1年間 | 320時間 |
なお、育児・介護を行う労働者については、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、事業主は、原則として1月24時間、1年150時間を超えて労働時間を延長してはならない、と時間外労働は制限されています。
この協定の限度時間を超えて時間外労働が行われているという法令違反も少なくありません。上記の限度時間の例外として、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合は、「特別条項付き協定」を締結することを前提に、限度時間を超える時間を一定期間の延長時間とすることが可能となります。この、特別条項付き協定を濫用して、常態化している残業をカバーしているケースが多かったため、2004年4月に「特別の事情」は「臨時的なもの(予算・決算業務、大規模なクレームへの対応、機会のトラブルへの対応など)に限る」ように条件が厳格化されました。これにより、年間を通じて適用されることが明らかな事由や、曖昧な事由(業務の都合上必要なとき、業務上やむを得ないとき、業務繁忙なとき、使用者が必要と認めるときなど)が特別条項においては認められなくなりました。厳格化したことにより、これがそもそもの協定限度時間を超えて時間外労働をさせるという悪循環に陥らないように、企業は長時間労働の抜本的な対策を講じなければならないでしょう。
そして、留意すべきは、36協定の限度を超す残業は、過労死やメンタルヘルス等の問題を引き起こすなど、コンプライアンスの問題に止まらないという点です。この点もおさえて、労働時間管理の適正化に向けて取り組んでいきましょう。
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2014-08-07 (木) 08:09:58
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