労働CSR
日本企業においては、コンプライアンス、環境経営などに比べて、労働分野におけるCSR(労働CSR)が立ち遅れています。
具体的に労働CSRとは、企業が置き換えることのできない人材として従業員を育成することや、従業員の多様な働き方に対応できるよう環境を整備すること、その個性・能力を活かせるチャンスを与えること、安心して働ける職場環境を整えることなどが考えられます。労働CSRの内容を項目別に整理すると次の通りです。
労働CSR | |
差別問題 | 一差別のない職場づくり ・男女差別(雇用機会均等) ・同和問題 ・年齢差別 ・人種差別 ・国籍による差別 ・身体障害者差別 ・学歴差別 ・非正社員差別 |
人権問題 | 一職場における人権の尊重 ・セクシャルハラスメント ・パワーハラスメント ・従業員のプライバシー保護 ・児童労働の禁止 一グループ企業、取引先における人権問題チェック ・海外における人権、労働環境への配慮 |
人的資本への投資 | 一人材開発への積極的投資 一企業利益の従業員への還元 一従業員家族に対する配慮 |
コンプライアンス・企業倫理 | 一労働・社会保険関係諸法令の遵守 一グループ会社、取引先のコンプライアンスチェック 一従業員、役員のコンプライアンス行動徹底 一従業員の非(反)社会的行動の抑止 一労働搾取の撲滅 |
安全衛生・労使関係 | 一健全で良好な労使関係の構築 一安全で健康的な職場環境の確立 一サービス残業の禁止 一長時間労働、過労死問題への対応 一不当解雇の禁止 |
社会貢献 | 一従業員による地域貢献社会貢献のサポート 一雇用の維持、創出による地域貢献社会貢献 一従業員エンプロイアビリティの獲得、向上 |
このように、労働CSRの対象領域は広範にわたっており、その内容はコンプライアンスから始まって、差別問題やセクハラ、過労死やサービス残業、さらには人材マネジメントの領域まで多岐に渡っています。また、他のCSRと同様、自社の労働CSR問題のみならず、グループ企業や取引先、業務委託先(派遣労働者など)にも目を配る必要がある点に留意しておかなければなりません。
会社のリスクを軽減するためにも、必ず取り組んでおかなければならないのが、「コンプライアンス」、「基本的人権の尊重」、「安全で衛生的な職場環境の整備」の領域です。この領域を蔑ろにして利潤をあげたとしても、企業は法律的、経済的、社会的、に厳しく責任を問われます。コンプライアンスや人権尊重がCSRを推進する上で最低限求められていることを考えれば、慣行だから、ばれなければ大丈夫、法律と現状は違う、といったことは通用しません。まずはこの領域の取組みを適切に行いましょう。
そのうえで、シェアリングプラン、両立支援、ポジティブ・アクション、エンプロイアビリティの向上といった領域のCSRにも取り組んでいって初めて、社会的責任を果たしているといえます。また、これらに取り組むことで、CSRを果たすだけでなく、優秀な人材確保や人材定着につながるというメリットを享受できます。積極的に取り組むことが臨まれます。
SA8000
(この項、チェックしていません。)
また、「SA8000」の認証取得を通して、労働関連のコンプライアンス体制を強化することも考えられます。
SA8000(Social Accountability 8000)は、国際労働機関(ILO)のほか、世界人権宣言や子供の権利条約を基礎として策定された、基本的な労働者の人権の保護に関する規範を定めた規格です。1997年に米国のCouncil on Economic Priorities(CEP)の下部組織であるCouncil on Economic Priorities Accreditation Agency(CEPAA)によって策定されました。SAIのアドバイザリー・ボードには、労働組合、産業界、人権擁護団体など多様なステークホルダーが含まれており、同規格を継続的に改善していくための議論を行っています。
今日、CEPAAはCEPから独立し、Social Accountability International(SAI)と改称しています(本部はニューヨーク)。 SA8000は、下記の9つの主要分野から構成されています。
SA8000の取り扱うテーマ>
- 児童労働の撤廃:
ILO勧告や法令等に抵触する児童労働への関与、支持をしないこと- 強制労働の撤廃:
懲罰や脅迫を用いた強制労働への関与、支持をしないこと- 労働者の健康と安全:
安全かつ衛生的な職場環境を提供すること- 結社の自由と団体交渉の権利:
自発的に労働組合を結成、参加する権利と団体交渉を行う権利を尊重すること- 差別の撤廃:
人種、出身階級、国籍、宗教、身体上の問題、性別、性的な志向、組合資格、所属政党などに基づいて、採用、報酬、教育の機会、昇進、解雇あるいは退職において、差別、支援をしないこと- 肉体的な懲罰等の撤廃:
体罰や、精神的・肉体的な強制、言葉による虐待、支援をしないこと- 労働時間の管理:
労働時間に関して適用される法令、業界基準等を遵守すること- 基本的な生活を満たす報酬:
賃金に関して適用される法令等を遵守すること- マネジメントシステム:
経営トップは、社会的説明責任を果たしうる労働条件等に関する企業の方針を定め、コミットメントすること
SA8000の認証を受けるには、次の2つの方法があります。
1)生産拠点を持つ企業は、認定された認証機関の監査を受けることにより、事業所毎にSA8000の認証を取得することができます。SA8000の認証は、SAIがライセンスを与えた独立の第3者機関によって行われます。事業所の監査システムはISOシリーズに類似のものとなっています。監査では、労働規範の遵守を確保するために、事業所における教育・研修とマネジメントシステムの導入と改善に重点が置かれています。
2)販売活動を主業務とする企業、あるいは生産と販売の両方を行う企業は、“SA8000 Corporate Involvement Program(CIP)”に参画することができます。CIPには二段階のレベルがあります。第1レベル(“SA8000 Explorer”)に参画する企業は、1部取引先の試験的な監査を通じてSA8000を調達基準として採用する取り組みを始めます。第2レベル(“SA8000 Signatory”)の企業は、一部あるいは全ての取引先に対して継続的にSA8000を調達基準として用いるほか、SAIが認証する公開の進捗状況レポートを発行します。CIPには、Carrefour、Doleなど、大手多国籍企業が参画しています。
SA8000ここまで
これら労働CSRについて、日本において現時点では直接的・間接的に効力を持つ法令や諸規則は存在せず、企業の自主的取り組みに任せられています。労働基準法など最低限の法令遵守から、よりよい職場づくりを行っていくことが重要です。その際、ファミリー・フレンドリー企業表彰制度や、各種助成金など国もいくつか支援を行っています。これらを利用し、さらに労働CSRを推進していくことが望まれています。積極的に取り組む姿勢が必要でしょう。
このテーマは、当研究所コンサルタント・大阪社労士事務所社会保険労務士の指導の下、大学コンソーシアム京都のインターンシップ大学生が記述した内容をベースにしています。著作権には注意を払っていますが、問題となる記載がありましたら、ご連絡ください。また、法的には、必ずしも最新の法令に適合しているとは限っていません。そのため、取扱いには十分ご注意をお願いします。
2014-08-06 (水) 09:53:30
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